898鳥飼玖美子著『戦後史の中の英語と私』

書誌情報:みすず書房,iii+263頁,本体価格2,800円,2013年4月10日発行

戦後史の中の英語と私

戦後史の中の英語と私

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著者のこれまでの軌跡をあらためて時代のなかに位置づけなおし,前著『通訳者と戦後日米外交』(関連エントリー参照)で試みた同時通訳の先達へのオーラル・ヒストリーを折り込んだ自伝的英語論・翻訳論である。
本書を通じて著者の英語を学ぶことの意味についての問いかけはもっとも説得的である。英語を学ぶ際の動機付けの大事さや英語教育をネイティブ教師任せではいけないことはよく理解できる。また,英語教育一般については別著『国際共通語としての英語』(関連エントリー参照)の趣旨と同じく,日本というコンテクストで外国語としての英語を学ぶということ,国際共通語としての英語であること,誰にでも英語を使えるようになることと要約している。
アポロ月面着陸時の同時通訳でのエピソード(アームストロング船長の 'That's one small step for (a) man, but a giant leap for mankind.' 中の man の前の不定冠詞 a は聞こえなかったこと)や繊維交渉問題での佐藤・ニクソン会談時(1970年)の英訳問題(ニクソン大統領から繊維輸出の自主規制を要請された佐藤首相が「善処します」と言ったのを通訳者は I'll do my best. と訳したこと)の紹介は著者の経験を社会的コンテクストに位置づけた好例である。
英語との出会いを述べた最初の章で,大学進学率について2011年度には62.6%としているが,この数字は短大・大学への進学率であり,四年制大学への進学率ではないと思われる。