418本山美彦著『集中講義 金融危機後の世界経済を見通すための経済学』

書誌情報:作品社,260頁,本体価格2,000円,2009年10月10日発行

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日曜日の夜,「坂の上の雲」の後ニュースを挟んでNHK「マネー資本主義」(9時45分〜11時)を見た。1970年代から一気に進んだ規制緩和の歴史を辿り,スーパーモンスターに成長した金融商品の跋扈とそれを規制し得ないアメリカ政府の現状を報告する佳作だった。投資銀行によるモーゲージ債発行と年金組合「カルパース」の動き,金融工学を駆使した新しい金融商品開発と金融工学者(クォンツ)登場,投資銀行員の高額報酬,商業銀行の脱皮,投資銀行ヘッジファンド,金融政策が通用しない謎など,金融危機を経験するもふたたびマネーゲームに突入しかねない現況への警鐘を内容としていた。
この筋書きは本書を下敷きにしているのではないかと思うほどだった。違うのは,オバマ政権における経済政策・金融政策への一切の幻想を断ち切っていること。
金融に大量破壊兵器がある。CDS (Credit Default Swap) がそれであり,保険会社が社債を発行した企業の支払い停止時に社債保有する投資家にたいして保証する約束を売買するものだ。さらには金融危機の進行中にも CFD (Contract for Difference:差益決済取引)なる「怪しげな金融商品」(199ページ)が登場している。著者の見取り図によれば,金融危機震源地=アメリカよりも,震源地でない日本の危機が深いのは,無制限に近い個人向け金融派生商品として販売されているからである。
オバマの経済政策は,世界中を震撼させたアメリカ式金融システムそのものにメスを入れていない。もともと生産システムを支えるはずであった銀行が証券化を進めるなかで,伝統的な間接金融から投資家がリスクを負う直接金融にシフトさせてきた「金融の進化ではなく退化」(115ページ)を追認しているからである。アメリカの金融関連法(「1933年グラス・スティーガル法」,「1934年証券取引法」,「1935年銀行法)による規制によって安定していた金融機関は,1980年代以降の規制撤廃によって一気に不安定にみまわれる。「政府からの規制を受けない金融組織ほどリスク対応力が強いというイデオロギー」(29ページ)がアメリカの金融政策決定に大きな影響力をもってきた。
CDSの規制,ひいてはデリバティブ取引規制は現在進行中の争点だ。金融危機後のこれからを見据えるうえでは読んでおきたい一書である。金融にかんする基本用語の解説,金融機関・人物などのコラムを豊富だ。