498末延岑生著『ニホン英語は世界で通じる』

書誌情報:平凡社新書(535),231頁,本体価格760円,2010年7月15日発行

ニホン英語は世界で通じる (平凡社新書)

ニホン英語は世界で通じる (平凡社新書)

  • -

クリキントンいやクリントンの娘チェルシーが結婚した。ニュースを見ていたらニューヨーク州ラインベックの店に Congratulations! の文字が見えた。日本の学校英語では結婚式のときに言うのは失礼にあたると教えられた。アメリカ英語でも使うことがわかってほっとしたと同時に正しい英語とはなにかを考えさせられた。
英語を母国語とする子どもたちも間違いをおかしながら学んで英語を習得する。過去形も不規則形も goed, swimed を使ったり,進行形に be 動詞をつかないまま ing で表現したりする。冠詞も間違うし,三単現の s にいたっては最も長期にわたって習得が遅れるという。bring, take, too と either, beautiful の比較級,最上級もよく間違える。日本語でも同じでトライアル・アンド・エラーで徐々に身に付けていくというわけだ。
著者は高校の英語教員になったとき,外国人宣教師に girl の発音がなっていないと叱責されたという。「アメリカ人は幼稚園に行く頃には,もう英語の発音がちゃんとできるのに,日本人はみな馬鹿だ。高校生になっても,先生になってもできない」。片言さえ日本語を使わない外国人にこう言われたくはない。
日本人の英語教育の目標をアメリカ人と同じ英語に固執させるな,が著者の主張だ。中国英語(ピジン英語),インド英語,インドネシア英語,シンガポール英語,フィリピン英語のようにニホン英語を認知させようというわけだ。ニホン英語は,和製英語を勧めているわけではなく,発音と文法の簡略化がポイント。
評者の使う英語は間違いなくジャパリッシュだ。日本語なまりを勧めていると読めば,著者の主張には大いに共感をおぼえる。「日本人は日本の言語文化を通じて,日本人らしく英語を話すということを,平然と世界に示せばいい」(202ページ)。
「学校英語の規制緩和」(第8章のタイトル)は実のところ難しいだろう。正統英語文法基準で正誤を判定する制度化された学校英語教育に抵触するからだ。
英語嫌いを大量に生み出している学校英語教育に大きな問題提起を含んでいるが,「間違いながらも間違いを恐れない者が,結局は間違いの少ない英語を話すようになる」(87ページ)という「フリー・エラーの環境」――評者のようなジャバリッシュ話者――と著者の言うニホン英語の制度化との間にはまだ溝があるように思う。