967高階秀爾著『ミロのヴィーナスはなぜ傑作か?――ギリシャ・ローマの神話と美術――』

書誌情報:小学館101ビジュアル新書(V029),223頁,本体価格1,200円,2014年2月8日発行

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「なぜミロのヴィーナスというか?」という問題にたいして,「みんなが見ろ見ろと言ったから」と迷解答した同級生がいた。中学校の時である。傑作あるいは名画と言われる作品の来歴はいっさい捨象して,それらがギリシャローマ神話の世界をどのように表現したのかに絞った作品解説はとても刺激的だ。
ミロのヴィーナスから,美の条件を,(1)「部分と全体の調和」,(2)「動き」の導入,(3)「衣裳表現」にまとめ,以下ヴィーナス,ゼウス,ヘラ,アテナ,レダ,ディアナ,ガラテイア,フローラ,ダナエの作品に神話の世界を読み取る。古代から20世紀の作者が登場する。鷲や孔雀のような「アトリビュート」,燃える松明は愛のシンボルなどを知ると絵も違って見えてくる。さらに,神話の世界はあくまでも口実であり,女性の裸体に興味があったことも知ることができる。
興味深いことは,神話をもとにしながらも「それぞれの時代が抱えるその時代特有の問題に深く関わ」(182ページ)ってもいる。神話世界に作者の思いを込めて作品を描いたわけだ。
神話の全体像として読み継がれてきたのは,オヴィディウス(紀元前43〜後18)の『変身物語』(『変形譚』)――中村善也訳[isbn:9784003212011][asin:B000J77VL0]――という。全15巻からなる「叙事詩体神話物語集」を是非とも繙くことにしよう。