書誌情報:洛北出版,176+95頁,本体価格2,800円,2009年3月25日発行
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龍谷大学社会科学研究所叢書第84巻。大学の市場化と企業文化の浸透が大学教育,教養教育に大きな影響を与えているとの問題意識から編まれた好著である。教養教育の思想性を問題にし,教養を文化的・主観的側面,内面的な葛藤を伴う発達論の見地から論じているのが特徴である。
自然科学分野で進む思想と切り離された技術教育,教養教育の核心を「ことば」の教育とする見地,FDの教育理念との切り離しへの危惧,世俗的世界との意識的隔離など7人の執筆者によって抉った問題点は,政治的社会的参加・民主的公共圏形成論という大学の存在意義を問うものでもある。話題になっている「学士力」を「ネオリベラル・アーツ」とする見方やこれまた多くの大学で進められているキャリア教育の負の評価は大いに検討されていい。スタンフォード大学で進行中の教養教育重視の教育改革は人文的教養の再評価と結びついていることを教えている。
執筆者の教養教育にたいする思いと力点がそれぞれ異なり,まとまったものではない。そのことがかえって評者には「学士力」や「社会人基礎力」などと雪崩のように襲ってくる強要教養論が薄っぺらにみえてしまう。
- 関連情報
- アレゼール日本 第6回シンポジウム「教養教育の危機と新たな人文学」→http://university.main.jp/blog7/archives/2009/07/post_404.html
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