194応地利明著『「世界地図」の誕生』

書誌情報:日本経済新聞出版社,278頁,本体価格2,400円,2007年1月24日発行

地図は語る「世界地図」の誕生

地図は語る「世界地図」の誕生

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大航海時代の幕開けを代表するポルトガル製地図=カンティーノ図(1502年作成)は,著者によれば,世界観から世界地図への変化を表し,科学性・実用性・思想性・芸術性の4要素を備えた画期的な地図である。絵画に傑作があるのと同様に地図にも傑作があるにちがいない。カンティーノ図は,正確な・役立つ・主張する・美しい地図だという。
カンティーノ図は,1868年にイタリア・モデナ市のエステンセで市中の豚肉店の後ろ幕として使われていたところを発見され,その後エステンセ図書館に所蔵されることになった。カンティーノはフェラーラエステ家がポルトガルに放ったスパイであった。ポルトガル王室の保管庫に秘匿されていた地図の盗写図であり,秘匿地図は「神の摂理論争」を喚起したリスボン地震(1755年)によって灰燼に帰してしまった。オリジナルが存在しない貴重なスパイ図というわけである。
カンティーノ図は中世世界図との断絶性をもち,古代のプトレマイオス図との継承・革新の連続性をもつという。著者が企図した世界図の思想史はすべて書き下ろしの本書のカンティーノ図の解読に凝縮されている。