876「立てこもり」から「ひここもり」へ――「ひきこもり」研究

1960年代から70年代には大学生の「立てこもり」があった。「ひここもり」もあったが,社会への異議申立としての「立てこもり」の影に隠れていた。いま70万人とも100万人ともいわれる「ひここもり」が「ひきこもし」も含めて社会問題になっている。
『日本の科学者』第51巻第6号(通巻第581号,2016年6月号,本の泉社,[isbn:9784780713121])の,漆葉成彦「ひきこもりの人びと――精神科医の経験から――」,原未来「ひきこもり周縁の若者たちのフリースペースをつくる」,鎌田エリ「教育現場からの支援」,藤本文明「ひきこもりは日本特有の現象か」を読む。
「ひきこもり」を医療の対象としたとき,統合失調症気分障害強迫性障害パニック障害,身体表現性障害,精神遅滞発達障害,パーソナリティ障害などがあり,「ひきこもり」支援には精神科医療を欠かすことはできない(漆葉稿)。他方,「ひきこもり」支援といえば「自立」と「就労」がつねに目標とされてきたことにたいして,若者の「育ち」を重視した支援の重要性が注目されるようになった。「居場所」「拠り所」となるフリースペースもそのひとつである(原稿)。若者支援の視点からは3K(競争・管理・強迫)から3A(安心・安全・愛)の学校づくりは自己責任に落とし込まない要となるし,少人数学級(25人以下)の実現にも関係する(鎌田稿,藤本稿)。
「立てこもり」はあの時代に欧米も含め社会「問題」化した。その欧米では「ひここもり」は社会問題化せず――イタリア,スペインでも問題化しつつあり,米英では若年ホームレスが増えているという現実がある――,日本と韓国とで大きな問題=課題となっている。'HIKIKOMORI' (英語になりつつあるという)は「日本型新自由主義(競争と社会的格差)」(藤本稿)と無関係ではない。