100アン・ヴァーノン著(佐伯岩夫・岡村東洋光訳)『ジョーゼフ・ラウントリーの生涯――あるクエーカー実業家のなしたフィランソロピー――』

書誌情報:創元社,iv+251頁,本体価格2,000円,2006年5月20日

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すでに4ヶ月ほど前に触れた著作の紹介である(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070525/1180101996)。主人公ジョーゼフ・ラウントリー(1836〜1925)は,チョコレート製造業者として成功し,1904年に3つのトラストを創設した。かつてジェントルマンが地方の農村に住み,ノーブレス・オブリージュを行使することで名望家として尊敬を勝ち得た。訳者岡村によれば,その「企業家版」が本書の主人公だ。フィランソロピーの先駆けともいうことができよう。なお,ベンジャミン・シーボーム・ラウントリー(1871〜1954)は,ヨークの貧困調査で有名だが,シーボームの父親がジョーゼフである。
ジョーゼフ・ラウントリーは,当時100万人の赤貧がいたとされる貧困問題にたいして,飲酒の習慣の撲滅と住宅問題の解決に焦点を絞ってフィランソロピー活動をおこなった。ピューリタン革命の時代に登場したプロテスタントの一派であるクエーカー(新渡戸稲造アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学留学中にクエーカーになったことはよく知られている)としてのラウントリーに,質素・禁欲・勤勉・誠実の特徴を見いだすことができよう。アイルランドの飢饉の目撃も大きな影響をあたえたであろう。
ラウントリーという一企業家のフィランソロピーは時代を超えた訴求力をもっていると思う。
ラウントリーによる3つのトラストは,現在別々の独立したトラストとして運営されている。これらはイギリス最大級の民間の独立財団として社会問題解決のためのさまざまな活動をおこなっている。(余談:現代においては企業のフィランソロピーは社会的存在としての企業にとって当然とみられている。他方で多額の政治献金が合法とされているのも事実だ。この政治献金をさらにフィランソローピーとして活用し,さらにわれわれの税金である政党助成金を貧困問題解決に振り向ければ,多くの効果を期待できる。)