062&006夏目漱石『明暗』のなかの「経済学の独逸(ドイツ)書」再論と「文豪・夏目漱石」展

東京出張を利用して,江戸東京博物館「文豪・夏目漱石」展(2007年9月26日〜11月18日)に行ってきた(公式ガイド。ここの「割引」ページをプリントアウトして持参すると前売りと同じ100円引きになる)。きっかけはふたつあった。ひとつは,かつて本ブログで「夏目漱石『明暗』のなかの「経済学の独逸(ドイツ)書」再論」,「同(その2)」,「同(その3)」と3回にわたって書いたことがあったこと。ふたつに,本ブログでもとりあげた「経済学の独逸書」に触れた新聞コラムの所在を知人から教えられたこと。そのコラムは次のようなものだった。

江戸東京博物館で,11月18日まで「文豪・夏目漱石」展が開かれている。東北大学漱石文庫」が初めて東京に里帰りというので出かけた。お目当ては,漱石が英国留学中に購入した1902年発行の『資本論』第1巻の英語版。洋書群の片隅にひっそりと立てかけてあったのは,おなじみのワインレッドの表紙に,背文字しか見えないがまぎれもなく"CAPITAL / CAPITALIST PRODUCTION / KARL MARX"とある。(改行)漱石が留学費用にもこと欠く身分で『資本論』を買うこと自体もすごいことだった。当時は,山川均が同じ1902年の英語版を獄中から注文したというエピソードも伝わるくらい,日本のマルクス紹介の草創期のことである。(改行)今日,この書に書き込みがないから読んだ形跡がないとの説もあるが,「漱石文庫」のうち書き込み本は洋書でも二割強にすぎない。服部文男氏は,かつてこの英訳本の存在から推して,遺作「明暗」で描かれた主人公の「二ヶ月以上もかかってまだ読み切れない経済学の独逸書」を『資本論』ではないかと問題提起していた(新日本出版社刊『マルクス探索』)。漱石は,この主人公の読破にかける動機について「彼はただそれを一種の自信力として蓄えて置きたかった。」と書いた。ここに,百年前の知性のひらめきを見るのは服部氏だけではあるまい。(『しんぶん赤旗』,2007年10月16日,コラム「朝の風」,「乾」の署名がある。)

たしかに,「洋書群の片隅にひっそりと立てかけて」あって「背文字しか見えな」かった(一度通り過ぎてしまった)。今回の企画は「東北大学創立100周年記念・朝日新聞入社100年・江戸東京博物館開館15周年記念」とはいえ,展示目録は《特別展「文豪・夏目漱石――そのこころとまなざし――」展示資料目録》として pdf が用意されているだけだ(上記の江戸東京博物館のページ)。図録にかわって,公式ガイドブックとして,江戸東京博物館東北大学編『文豪・夏目漱石――そのこころとまなざし――』(朝日新聞社,2007年9月30日,本体価格1,600円)が市販されていた。『資本論』を含む洋書について,「ロンドンで買った本」として写真で紹介されている(68ページと69ページ)。折角なので,この本と妻の好物「白松がモナカ」を買った。評者の好物である海鞘(ほや)は売ってなかった。残念。

文豪・夏目漱石 そのこころとまなざし

文豪・夏目漱石 そのこころとまなざし