191井上治代著『墓と家族の変容』

書誌情報:岩波書店,xiii+281+6頁,本体価格4,200円,2003年2月20日発行

墓と家族の変容

墓と家族の変容

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昨夜のNHKニュースで,昨今の墓事情が変わり,都市部を中心に墓とは別に納骨堂を使用する人が増えていると伝えていた。他方,檀家確保のお寺事情も背景にある。コメンターに登場したのが著者だった。積ん読本の一冊に本書があった。
本書のテーマは,単系墓祭祀が戦後の家族変動によってどのように変容したのか,である。新潟県巻町,鹿児島県大浦町の実態調査や福岡市立霊園,東京のある墓地での調査などを交え,墓の脱継承現象を指摘している。非継承墓,脱墓石化(散骨や樹木葬など),継承難の継承墓の問題など墓の変容がそれであり,死者祭祀の外部化はさらに進むだろうとしていた。
「墓のない人生ははかない人生」とは地元の墓石業者の宣伝だ(本ブログでは2度目の使用)。考えてみれば,墓は,いかに立派な墓であろうと本人はその墓を見ることができない(生前自分の墓を作る例があり,確か朱を入れておくこともあるが)。夫婦で入る必要もないだろうとは思う。家や家族の変容が墓事情に大きく関わっているのは間違いない。
エンゲルスはベルンシュタインとベーベルに灰にして海に撒いてくれと遺言した。エンゲルスの死後,社会民主党は故人の遺志にさからって墓を作ろうとして大論戦になった。投票の結果,遺志どおりとなったエピソードが残っている。
それはともかく,墓がなくともはかなくはないよね。