196春日直樹著『<遅れ>の思考――ポスト近代を生きる――』

書誌情報:東京大学出版会,iii+235頁,本体価格2,800円,2007年3月5日発行

「遅れ」の思考―ポスト近代を生きる

「遅れ」の思考―ポスト近代を生きる

  • -

21世紀初頭の世界をポスト近代とし,市場化と自己規律化を特徴としているとする。これらはマルクスに代表される「解放の言説」とウェーバーに代表される「規律化の言説」に対応する。<遅れ>の問題とは,理念(=認識)に対する現実(=経験)のそれと経験に対する認識のそれとがあり,市場化と自己規律化の奥底で進行する事態だ。
欧米や日本とフィールドワークの舞台であるフィジーにおける<遅れ>の様相を見ることで理念と現実とのズレを確認する。このズレがつねに「問題-解決」の処方箋を要請するというのだ。著者の問題設定がデリダ差延ドゥルーズの時間イメージに関連し,混沌とする現代との格闘であることはわかった。著者の言う<遅れ>論に評者の理解が<遅れ>ていることだけは確かだ。