285柳川範之著『独学という道もある』

書誌情報:ちくまプリマー新書(102),143頁,本体価格700円,2009年2月10日発行

独学という道もある (ちくまプリマー新書)

独学という道もある (ちくまプリマー新書)

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著者は,父親の海外勤務の関係で小学校,中学校時代にシンガポールとブラジルで暮らす→ブラジルで暮らしながら大学入学検定試験を受ける→慶應義塾大学通信教育課程に入学し卒業する→東京大学大学院に入り,途中プリンストン大学への留学を挟み,東京大学院で学位を取得する→そして現在東京大学准教授,という経歴を持っている。
小中学時代の独学やノートを作らない,マーカーは引かない大検勉強法,会計士志望から経済学のおもしろさにめざめ東京大学大学院を目指しての勉強と大学院での研究など著者の経験が披露されている。現在の教育システムはそれなりの教育を受けるためのものでしかないこと,進路の選択肢が多様にあり,大学院がその場所であってほしい,という主張にも繋がっている。
著者の独学はレールを外れたけれどもレールに乗った希有なケースということもできる。どんな就職経験があろうと関係ない大学院や学界かどうか,いい論文さえ書ければ十分評価されポストがえられているかどうか,いくらでもケチをつけられるが,著者の学びの姿勢と大学院の位置づけについてはおおいに共感をもった。
本新書は10代向け対象だろうけど,われわれ「大人」が考えるべきことを提供している。学校や研修という名の制度化された,あるいは半制度化された機会を除けば,多くの人にとっては人生の大部分において独学せざるをえない。「どんな年齢になっても,将来の選択肢はたくさんあ」ってほしいものだ。