書誌情報:中公新書(1955),320頁,本体価格880円,2008年7月25日発行
- 作者: 高田里惠子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/07/01
- メディア: 新書
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『文学部をめぐる病い――教養主義・ナチス・旧制高校――』(松籟社,2001年,isbn:4879842168;ちくま文庫版,2006年,isbn:9784480422156)の著者による,大日本帝国の軍隊と旧制高等学校を舞台にした大衆社会化論だ(『グロテスクな教養』ちくま新書539,2005年,isbn:9784480062390は未読)。前著では,旧制高校のドイツ語教師を,二流の男たちの怨念を引用的に描いた。本書は,帝国陸軍での旧制高校生があぶりだされる平等性と不平等性をえがく。戦中派世代論,高学歴兵士たちの悲喜劇,異質なものとの接触をキーワードに,旧制高校が精神の貴族としての特権的共同体やエリート的ナショナリズムの苗床であったことを指摘している。
旧制高校論で必ず披瀝される「ノーブレス・オブリージュ」は,帝国陸軍や庶民兵士からはまったく相手にされていなかった。ノーブレス・オブリージュが成立するためには,自他の自覚と承認が必要であり,後者による承認が決定的である。ところが日本ではそれが成立しなかった,大衆の動向とはまったく関係なしのエリート教育だったというわけである。前著同様,いたるところで旧制高校や教養主義の限界を指摘している。焦点は高学歴兵士におかれているが,彼らがもつ泥臭さ,出世欲,自己保身などが意識的に拾い上げられている。前著をならえば,戦時下での旧制高校の病い,を描写していると評しえよう。