203潮木守一著『フンボルト理念の終焉?――現代大学の新次元――』

書誌情報:東信堂,xi+270頁,本体価格2,500円,2008年3月31日発行

フンボルト理念の終焉?―現代大学の新次元

フンボルト理念の終焉?―現代大学の新次元

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フンボルト理念とは「学ぶ者と教える者との協同体」を指す。「学生の自由」「学習の自由」を前提に,少人数教育のゼミナール(実験)がその具体例となる。著者は,近年提示されたパレチャク教授の「フンボルト理念は後世の人間が作り出した神話であった」を肯定的に受容し,フンボルト理念からの脱却・克服というテーマに迫っている。著者によれば,ゼミナール(実験)はごく少数の選ばれた学生しか受講できなかったことや自由を強調されることで逆になにをしたらいいかわからない「フンボルトのすき間」があったことを検証する。フンボルト理念は,「秩禄大学」と「親族大学」=属人原理の克服にあったが,学界の有力ボスに教授人事を委ねる別の属人原理を生んだ。また,第一次世界大戦後の賠償金支払い,一分野一正教授主義などによってフンボルト理念によるドイツの大学は転機をむかえることになった。
フンボルト理念を倣いながらも,巨額の寄付によって教育と研究の分離を果たすことができたアメリカ,他方,教授の口述筆記に終始した当時の帝国大学に挑戦した京都帝国大学におけるゼミナールの導入は,神話とはいえ,日米両国の大学教育に強烈な影響を及ぼした。前者は,20世紀における研究大学(院)に結実し,後者は官僚養成機関の構図から失敗に帰したが。北京大学精華清華大学フンボルト型の受容または非受容と無関係ではなかった。
フンボルト理念には研究を通じて教育を,の考えがあった。著者は大学が「知的センター」として存在することでそれを果たしうると展望している。一読に値しよう。