628吉見俊哉著『大学とは何か』

書誌情報:岩波新書(1318),iii+259+5頁,本体価格820円,2011年7月20日発行

大学とは何か (岩波新書)

大学とは何か (岩波新書)

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大学の起源から「最初からトランスローカルな知識空間」・「大学の知の根源的な普遍主義」(50ページ)という特徴を取り出し,国民国家の成立とそれを超える時代の到来という歴史認識をもとに,大学概念を再考しようという意欲的な著作だ。ヨーロッパの大学の誕生とフンボルト型大学,アメリカにおける大学院の発明,日本における帝国システムとしての帝国大学など大学の歴史に多くのページが費やされている。
高等教育における連携や大学間連携に「中世の都市ネットワークを基盤にした大学の時代の再来」(16ページ)を構想し,メディアの一種として大学を再定義し,「文化概念全体の脱構築と,それを通じた専門知とリベラルな知の新たな関係発見」(22ページ)をしようという「探求の軸」に沿って,「終章 それでも,大学が必要だ」で著者の新しい大学概念の提起に対応している。大学の中世的モデルに未来の大学を託し,「自由学芸」に近い「新たな横断的な知の再構造化」(244ページ)を語る。大学は「「エクセレンス」と同時に「自由」の空間を創出しなければならない」(256ページ)のだ。
著者の新しい大学は「新しいリベラルアーツと,今や発見や開発だけでなくマネジメントにも注力する様々な新しい専門知の緊張感ある関係を創出」し,「グローバルな知の体制へと変貌」(255ページ)する。「普遍的な価値への志向」(236ページ)が著者の大学論の核心部分らしい。大学が必要なのは誰のものでもなくこの「普遍的な価値への志向」を保持し続ける限りにおいてである。著者は「大学をめぐる今日の窮状を打開する糸口」・「〈大学〉という問いの射程」の「大幅」な「拡張」(258ページ)と本書を位置づけるが,メディア論的大学論にはすくなくとも評者の「命がけの飛躍」(239ページ)をするロドス島が見つかっていない。