404潮木守一著『職業としての大学教授』

書誌情報:中央公論新社(中公叢書),210頁,本体価格1,600円,2009年10月10日発行

職業としての大学教授 (中公叢書)

職業としての大学教授 (中公叢書)

  • -

日本,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツの5ヶ国を取り上げ,大学教員養成システムと博士学位取得を比較検討し,博士課程の募集停止を提言している。
教員構成の特徴を,ピラミッド型(イギリス,フランス,ドイツ),煙突型(アメリカ),逆ピラミッド型(日本)に特徴づけ,日本のそれを「世界のなかでも特異な特徴」(37ページ)とまとめる。さらに,新堀通也著『日本の大学教授市場――学閥の研究――』(東洋館出版社,1965年)の問題提起をふまえ,自家養成とエスカレータ方式の教授昇進システムに「日本の大学と学問の沈滞の原因」(52ページ)をみる。ふたたび5ヶ国の「大学教師の値段」を比較し,日本の「お手盛り人事」「悪平等」(114ページ)を摘出する。さらに5ヶ国の博士学位取得の各国比較から日本の「非学歴社会,非資格主義の社会」(122ページ)を指摘し,大学教員(=博士号取得)へのキャリアが反映されるべく勧告をする機関の必要性を強調する。「企業型大学」や「大学資本主義」と言われほど変化が激しい大学であればこそ新しい大学の「メタモルフォーズ」(189ページ)が必要と説く。
博士課程の募集停止はひとつの提言であって,大学の昇進人事の客観性の担保,大学からの悪平等の追放,高等教育費の増額,大学をつねにチェックし必要な勧告などをする機関の設置と併記されている。
5ヶ国の比較検討は本書の最大の特徴だ。各国が大学と教員をどのように位置づけるかという違いを明らかにしている。すくなくとも著者は――日本は改善の余地があるとの意見では首尾一貫している――客観的に分析しているが,各国とも大学院生やポスドクなどによる大学の教育・研究の下支えについての実態への評価を慎重に避けている。
複数回例を出し,微温的大学の象徴として描かれるウィークデーの午前中からテニスをしている教授はほんの例外的な例にすぎないだろう。人口1万人当たりの教授の数が多い日本を問題にすると同時に,人口1万人当たりの大学教員数がもっとも少ない日本の特徴も問題にされていい。