631諸星裕著『大学破綻――合併,身売り,倒産の内幕――』

書誌情報:角川oneテーマ21(C-194),209頁,本体価格724円,2010年10月10日発行

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文科省学校基本調査の速報値(2011年8月)による最新の4年制大学数は780大学(国立86,公立95,私立599)である(2011年4月現在)。昨年度よりも2大学増えている。4年制大学への進学率が50%を超えながらも18歳人口が減少していくことから著者の見通しならずとも大学淘汰が進むことは確実である。大学生き残り策や大学コンサルティングが喧伝され,大学破綻本・崩壊本が活況を呈している。評者の大学本の読みは大学の危機を煽るだけになっていないか,前向きな提言や改革案が含まれているかである。狼少年的大学論は勝手にやってくれということだ。本書はさすがにこの危機を大げさに指摘するだけではなく,大学行政や大学マネジメントから大学サバイバルを語っている。もっとも教育の質は学生と教員の比率であるとしながら,大学財政における高い人件費率を問題視するのは矛盾する。
大学職員の専門性を高め,レベルアップの必要性を指摘するのはそのとおりだ。図書館,入試,カリキュラム,マネジメントなど職員がプロとして関われことで日本の大学も大きく変わる。著者が所属する大学院研究科でそれを実践しているとのことだが,この間少しは進展したと思われるFDやSDの現状と問題について紙数を割いて欲しかったところだ。
教員の教育への姿勢については何カ所で指摘しており,本書の隠されたテーマと言ってもいい。「普通レベルの学生が大半を占める大学であれば,その分野で今どのような研究がなされているかを把握していれば十分」(82ページ)として「学生のレベルにあった教育」(83ページ)を主張している。「大学は,研究機関という幻想にすがり,若者の教育機関であるという重大な使命を無視し続けてきた」(91ページ)という。大学の本質は教育にあるという視点は正しい。「ほとんどの大学では相変わらず研究者の教授たちが,教員の仮面をかぶって教育の真似事をしている」(190ページ)となると大学の現場を見損なっている。「(前略)教員がどうであれ,大変な脚光を浴びる大学になることは間違いありません」(198ページ)と教員を敵視することも間違いだ。
大学の教育を変えることで大学再生をという著者の思いはよく伝わった。