書誌情報:旬報社,149頁,本体価格1,600円,2009年4月10日発行
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いたずらに危機を煽るのは好きではない。全般的危機や世界同時革命などといった言葉を溢れるほどに聞いた反動かもしれない。
本書のタイトルと内容から,その種の狼少年的な,「大学破壊」の具体的確認の叙述が大半を占める。困難ななかでの教職員の努力の積み重ねの周知も刊行の動機とはしていても,ややバランスを欠くといわざるをえない。
行政改革の一環・行政のスリム化という政治的動機を出発点として,独立行政法人通則法を基準にした制度改革の不備と政府財政支出の削減に問題の核心をもとめるのはまったく正しい。益川敏英さんの推薦の言葉「基礎的な研究費まで削って管理運営費にまわす,今の国立大学の仕組みはおかしい!」(帯)はまさにそのとおりだ。
だからといって,「底なしの暗さ」として描かれる若手研究者,「沈没寸前の国立大学号」,「混迷深める国立大学」,「地方国立大学は存亡の危機」,「満身創痍,まさに包帯でぐるぐる巻きの重傷患者」などの暗黒黒書からは明るい未来はけっしてでてこない。また,私立・公立大学との連携を問わないままの国立大学論は,国立大学法人化の過程が示すように,765分の86の問題でしかないのだ(765は4年制大学数,86は国立大学数:いずれも08年3月時点の数字)。
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