274諸星裕著『消える大学 残る大学――全入時代の生き残り戦略――』

書誌情報:集英社,221頁,本体価格1,400円,2008年7月30日発行

消える大学 残る大学 全入時代の生き残り戦略

消える大学 残る大学 全入時代の生き残り戦略

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「大学改革を生業とする」(9ページ)著者であってみれば,大学の危機をあおりつつ,改革を主張するのは至極真っ当である。著者の提言をもとに抜本的改革に取り組めば大学は生き残ることができる。なんだ結局著者の売り込みかと突っ込みたくなるが,傾聴すべき内容を含んでいる。
著者によると,日本の大学の致命的欠陥は,①各大学が明確な「ミッション(役割,使命)」を持っていない,②学生を選抜するメカニズムが機能していない,③きちんとしたカリキュラムがなく,学生にマッチした授業ができていない,④教員の本来の役割が認識されていない,⑤客観的な成績管理や図書館など教育資源の有効活用ができていない,⑥授業料が単位制をもとに考えられていない,⑦大学の管理・運営がプロによってなされていない,⑧大学が社会と地域の財産になっていない,だ。
著者は,教育,研究,学生の成長,社会・地域貢献を教員の責務とし,「優先順位や配分」(128ページ)は大学のミッションだけでなく,個々の教員の資質・キャリアによっても違ってくると主張する。「学生の教育が第1のミッション」(140ページ)の大学は,学生の教育に全力を尽くすべきで,「教育者としての面が不充分なときに,研究者の面が言い訳に使われる」(141ページ)。研究を責務とするのは研究優先の大学の教員ということになる。
研究が教育と,教育が研究と無縁な空間に存在するなら話はわかる。さきの教員の責務がひとりの人間が背負うわけだから,「優先順位や配分」ではなくまずは教育と研究をしないといけないのだと思う。