275 Marcello Musto (ed.), Karl Marx's Grundrisse: Foundations of the critique of political economy 150 years later

書誌情報:Routledge, pp.xxvi+291, 2008(eBooksはisbn:9780203892107ただし,アマゾン未登録)

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編者のマルチェロ・ムストはイタリア・ナポリ大学に席をおき,新メガ編集にも関わる哲学の専門家だ。数年前新メガ国際シンポで来日したことがある。
日本では『経済学批判要綱』として知られている Grundrisse は,マルクスが1857年から58年にかけて書いた草稿である。『資本論』に先行して書いただけに,のちに『資本論』で発展的に取り扱ったものもあれば,消えてしまったものもある。よく「トルソ (torso)」と評されることがある。
この Grundrisse が書かれてから150年を経て,ムストによって編まれた本書は,11本の批判的論文,3本の執筆時マルクスの解説,さらに20数カ国における普及と受容からなっている。
普及と受容ではいくつか興味深い事実について触れていた。Grundrisse の翻訳史を整理したムストによると,ドイツ語版初版(1939-41),同第2版(1953),日本語(1958-65),中国語(1962-78),フランス語(1967-8),ロシア語(1968-9),イタリア語(1968-70),スペイン語(1970-1),チェコ語(1971-7),ハンガリー語(1972),ルーマニア語(1972-4),英語(1973),スロバキア語(1974-5),デンマーク語(1974-8),セルビアセルボクロアチア語(1979),スロベニア語(1985),ペルシャ語(1985-7),ポーランド語(1986),フィンランド語(1986),ギリシャ語(1989-92),トルコ語(1999-2003),韓国語(2000),ポルトガル語(2008)である。原語以外では日本語訳が世界最初であったことがわかる。中国語もかなり早い(これは初めて知った)。ちなみにムストの整理ではロシア語版はかなり遅くなっているが,これは言ってみれば正式版。1920年代にはすでに Grundrisse のロシア語版(部分)が知られており,日本語にも一部訳されていた。
日本の状況については内田弘が寄稿し,翻訳史と研究史をまとめている。内田は翻訳本の詳細にも触れ,最初の大月書店版『経済学批判要綱』(1958-65)が,第1分冊15,050部,第2分冊12,092部,第3分冊11,564部,第4分冊9,558部,第5分冊9,062部出たと書いている。『1857-58年の経済学草稿集』に収められた版では(大月書店,1981, 1993),第1巻4,479部,第2巻2,773部としている。内田は末尾で評者が関係した本(『『経済学批判要綱』における歴史と理論』青木書店,2001年,isbn:4250201031)に言及し,「『経済学批判要綱』を21世紀の文脈におき,それがどのように現代の世界資本主義の諸問題とりわけ経済的不平等と環境危機の体系的分析のための見取り図を描いているかを示した」(p.216. かなり意訳)とまとめている。
評者は Grundrisse の普及と受容の部分にもっとも関心を惹かれた。
『経済学批判要綱』の日本語訳は現在では『草稿集』版も古本でしか手に入らない。『マルクス自筆原稿 ファクシミリ版 経済学批判要綱』(大月書店,1997年,isbn:9784272004508)はマルクスの草稿を再現したものだ。150部限定出版で本体価格85万円もした。大学図書館などで見ることができるかもしれない。