681カール・マルクス著(中山元訳)『資本論 経済学批判 第1巻 I』

書誌情報:日経BP社,451頁,本体価格2,000円,2011年12月5日発行

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日経BPラシックスシリーズの一書として,『資本論』第1巻を4分冊にして出す予定の第1分冊である。第1分冊は第1篇・第2篇,第2分冊は第3篇・第4篇第12章まで,第3分冊は第4篇第13章・第5篇・第6篇,第4分冊は第7篇になるという。
第1分冊は第1篇「商品と貨幣」,第2篇「貨幣の資本への変容」(慣れ親しんだ訳語としては「転化」)を収録している。新訳ということでいくつかの独自性がある。(1)原書にある合計7本の序文やあとがきのうち最初の序文だけを冒頭に配置して,6本を第1分冊の末尾に回したこと,(2)原書はいわゆるディーツ版により,訳注をディーツ版,ペンギン版英訳,(アルチュセールの序文がある)ガルニエ版仏訳によって作成していること,(3)小見出しや改行は必ずしも原書によっていないこと(本文の一字下げず,改行後の二字下げは日経BPラシックスの方式のようだ),である。
これまた慣れ親しんだ「剰余価値」・「剰余労働」・「剰余生産物」の「剰余 Mehr-」は「増殖」,「価値対象性」をガルニエ版を参照して「価値の現実」・「価値の実態」と訳出している。「増殖」については後に資本の運動を規定する際に「自己増殖する価値」が出てくる。整合性に注目している。第1篇第1章第4節のタイトル(と本文)では「フェティッシュ」,第3章第2節の「商品の変身」,「鋳貨,価値の記号」,第2篇第4章の「貨幣の資本への変容」などの訳語もある。
有名な冒頭部分はこうだ。「資本制生産様式が支配的な社会においては,社会の富は「一つの巨大な商品の集まり」として現れ,個々の商品はその要素形態として現れる。だからわたしたちの研究もまた商品の分析から始まる」(27ページ,傍点省略)。これまた有名で評者の座右の銘にしている「フランス語版への序文とあとがき」の末尾の文は,「学問に王道なしです。学問の急峻な坂道をよじ登ることを厭わない読者だけが,輝かしい頂点に到達する機会を手にするのです」(414ページ)。現代日本語として読みやすい『資本論』の翻訳を企図していることはよくわかる。
訳者「入魂の訳業」(惹句から)だそうだから,新メガの成果や「先行の訳業」(451ページ)を参照したにちがいない。