書誌情報:ナツメ社,223頁,本体価格1,400円,2010年10月25日発行
- 作者:松尾 匡
- 発売日: 2010/10/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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マルクス経済学を「図解」する著者のマルクス経済学論はまずこうだ。マルクス経済学が「とっくに現実を説明する力を失って見捨てられつつあった」(2ページ)のであり,主流派経済学の手法を取り入れた数理マルクス経済学でしかマルクス経済学の現代的再生はない,格差・貧困問題の実証的研究,分配的正義の規範理論,インフレ・ターゲットによる金融緩和論,富裕層課税による政府支出論など格差・貧困問題や不況問題にたいして解決策を示しているのは非マルクス経済学者である。
いまひとつ,資本主義における近代的な人間関係の原理に歴史的進歩性を発見し,高尚な理念・理論の押し付けをしないところにマルクス理論の核心をみる。「これまでの多くのマルクス解釈は,この点を軽視した」(26ページ)というのだ。
著者の問題意識は十分理解しつつも,現実を説明しようとする多くの営為と議論の積み重ねは著者の大胆な見通しを裏切っている。もちろん,著者は「現代経済の分析にマルクス経済学はどう役立つか」(208-9ページ)でマルクス経済学で現代経済を分析する有効性を検証してはいる。
マルクス経済学の特徴をまとめ,唯物史観の説明,資本主義発達史論など著者の解説は『資本論』を中心にしながらも全体として資本主義そのものとそのなかで生きる人間の生き方を問題にしている。労働の二重性論や価値形態論抜きに貨幣の成立をスミス的に交換不成立から説明したり,資本主義の発展段階を本源的蓄積のタイプによって切り分けているのは金貨幣論を排し資本主義の歴史性を指摘する著者のこだわりだ。
現代的な数理経済史に「唯物史観を現代化」(200ページ)したとし,ゲーム理論による制度分析の「応用」(202ページ)に期待するのは前著から一貫している。アソシエーショニストとして開放個人主義による倫理観の提唱による展望は著者にしか主張できない。
このシリーズの類書である八木・宇仁著『図解雑学 資本主義のしくみ』(2003年5月6日発行,[isbn:9784816335021])と比べるとマルクス経済学の問題性を鋭く抉った書物といえる。ナツメは漢方薬として使われるという。著者のナツメ社「図解雑学」はマルクス経済学再評価の薬効を持っている。
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