557長尾真著『情報を読む力,学問する力』

書誌情報:ミネルヴァ書房,xi+309+9頁,本体価格2,800円,2010年7月20日発行

  • -

「シリーズ「自伝」my life my world」の一書。前半は言語処理,画像処理,機械翻訳電子図書館,情報の信頼性と研究の跡を辿り,後半は京都大学附属機関長(大型計算機センターと図書館),同総長,情報通信研究機構理事長,国立国会図書館長と大学・機関の運営管理の経験を語っている。
著者の研究対象が情報学の発展と重なり,形式言語自然言語,言語情報処理,機械翻訳の歴史を概観できる。また,電子図書館構想が言語と画像処理のほか知識組織化などの延長にあることがよくわかる。「図書館は本という単位で知識を整理するところから,もっと小さな単位で知識を整理するところに向かってゆくのが電子図書館時代であり,これによってより人間頭脳に近い知識の組織化ができる」(136ページ)。大学文書館という日本で初めて設置された京都大学大学文書館にも著者の構想と指導力が大きかった。
京都大学総長時代には大学審議会答申「二一世紀の大学像と今後の改革方策(1998年10月),行革方針,遠山プランなどが矢継ぎ早に提起された。とくに国立大学法人法案等六法案成立直前までは国立大学協会会長でもあった。「国立大学法人法が可決されたときに同時に行われた付帯決議が全く尊重されていない,全く無視されている」(203ページ)との指摘や「大学のようなところでは学長がリーダシップを発揮しなくてもうまく運営されているようにするのが本当の学長のリーダシップである」(203-4ページ)との確言は大学人の一良識を示すものである。大学入試については一言も触れていない。
「いかなる動機でその世界を出発させ,どのように進展させ,時には遍歴し,とにかくあるところまで達成したか,の軌跡を公開する」という本シリーズの続刊に期待が高まる。