書誌情報:吉川弘文館(歴史文化ライブラリー328),8+217頁,本体価格1,700円,2011年9月1日発行
- 作者:加瀬 和俊
- 発売日: 2011/08/22
- メディア: 単行本
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大きな5つのテーマ――失業問題の歴史,失業者の生活と意識,失業問題観と対策論争,失業救済事業,失業保険制度不在の原因と影響――から,戦前日本における失業問題の歴史を論じている。「日本の失業問題・失業対策の歴史については,これまで十分な研究がなされてこなかった」(2ページ)との反省に立って,戦前の失業問題と失業対策を概括している。失業問題・失業対策が社会問題化した1920年代から30年代前半期がとくに詳しい。
戦前日本の失業対策のうち実際に実施された政策は失業救済事業(救農土木事業はこの失業救済事業の「農村版」)だけである。これは日雇(ひやとい)失業者を対象としたもので,俸給生活者への失業救済事業も制度化されるものの,すでに国際化していた失業保険制度・失業手当制度の拒否する「日本的対策」(48ページ)だった。この失業救済事業と失業保険制度をめぐる失業者・政府・財界間の力関係と駆け引きが十分に描き出されている。
「大学は出たけれど」という言葉で知られる昭和恐慌期の中高等教育機関の卒業生の就職難について,財界団体や評論家は,「学校教育が実学的でなく就職に役立たない」と批判した。日本経済連盟会のアンケート結果にも「学校数を減らし,教育内容を実業本位にすべき」とあり,著者は「高学歴失業者が累積している原因は産業側にはなく,もっぱら教育制度の問題とされており,卒業生が経済事情に見合わない高望みを続けているからであると理解されていた」(125ページ)と分析している。
歴史を繙くことから失業問題は解決しない。しかし,解決の方途を学ぶことはできる。
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