376西成田豊著『退職金の一四〇年』

書誌情報:青木書店,349頁,本体価格2,900円,2009年3月23日発行

退職金の一四〇年

退職金の一四〇年

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退職金制度は日本独自である。その歴史を背景重視で明治維新から現在まで描いている。著者の視点は明確で,国家の労働政策,産業技術のあり方,企業経営者の思想,労働運動,なかでも産業技術と企業経営者の思想を重視している。従来退職金制度について,勤続功労報償説,生活保障説,賃金後払説がある。第3説についての異論を前提に,前2者の歴史的検証という性格を合わせもっている。
退職金制度は日本の「後発工業化」によって生み出されたというのが著者の出発点だ。官業中心の工業化政策にあって,年期を満了すればもらえるとして,官業に定着させる目的から,熟練の高賃金労働者かひとにぎりの役付上層労働者対象の勤続功労報償の性格が強いという。同時に,勤続思想と労災救済制度の定着にも注目している。日露戦争後には,民間企業では脱退給付金,官業では事実上の退職金として一定の広がりをもつようになる。家族主義と結びついた勤続功労報償である。
1920年代から昭和恐慌期には退職金規程が中規模上位以上の企業を中心に制定される。人員整理が恒常化したこともあり,経営家族主義や国家的共同性と結びついた勤続功労報償と生活保障を目的にしたものとなる。それ以降敗戦までは 失業保険成立を趨勢とした先進資本主義国とは異なる国家的統合のもとでの退職金制度の法制化が進む。
敗戦から復興期にかけては労働政策と労働運動の圧力のもとで退職金制度が再建され,勤続功労報償の性格を強めたが,低い社会保障を補う生活保障の性格もある。
高度成長から平成不況になると退職金制度が退職年金化する。これは勤続功労報償的性格という初期の「後発工業化」時代の制度にきわめて類似してくる。ところが,第一次オイルショックとME革命によって勤続功労報償的性格は後背に退き,生活保障の性格が強くなる。さらにここ20年のあいだに退職年金制度自体がゆきづまり,社会保障補完と生活保障機能を縮小させながら,「衰退しつつ存続」状態にいたっている。
働いたら退職金がもらえるという通念に歴史分析から挑戦した書とは確実にいえる。働いても退職金がない,あるいは働きたくても働けない現状への視線も重なってくる。