書誌情報:岩波書店,viii+245頁,本体価格2,500円,2011年9月28日発行
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公共事業をかつての(現在もその影を落としている)土建国家への逆流に戻すのではなく,福祉国家への道筋に定置させ,「雇用連帯社会」を展望する意欲的な書物である。考え方の基礎になっているのは,多数者の負担のもとでの少数の人々を救済する政策パッケージ(=「ターゲッティズム(選別主義)」)ではなく,すべての人々が必要とするサービスをすべての人々の負担でまかなう「ユニバーサリズム(普遍主義」である。現金給付は国が,現金給付以外のサービスは地方自治体がそれぞれ担うという政策は中間層の生活を充実させ満足させるという。
対人社会サービスの拡充→コンセンサスによる増税というシナリオは人々の予算への参加可能性の拡充(「公共の任務」)と支出抑制的で税収調達能力が高い「新しい公共事業」によって「増税を超える可能性」(234ページ)を含んでいる。「マイクロなレベルでの「雇用保障への(「への」に強調点:引用者注)連帯」――すなわち住民参加による雇用保障への合意――とマクロなレベルでの「雇用保障による(「による」に強調点:引用者注)連帯」――雇用保障を通じた中間層の説得と社会統合――」(235ページ)。財政再建はその先にあるというわけである。
道路・橋梁の高齢化問題,鳥取県の森林管理政策,富山とドイツ・ハレ市のコンパクトシティ構想,福祉雇用レジーム,補助金制度と民主主義,自治体間協力と各論の展開を踏まえた現実的代案はセーフティネットの解体に突き進んだ公共事業悪論の再考でもある。「公共の任務を果たさない政府には人びとは租税抵抗で応じること」(240ページ)とする表明の意味は重い。
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