401内井惣七著『ダーウィンの思想――人間と動物のあいだ――』

書誌情報:岩波新書(1202),x+218頁,本体価格740円,2009年8月20日発行

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今年は,すでに触れたように,ダーウィン生誕200年,『種の起源』150年にあたる。
本書は,ダーウィン進化論の思想に焦点を当て,哲学思想として読み解き,ダーウィン思想の本質を抉ろうとしたものである。構成は,地質学者ライエルの『地質学原理』における地質学方法論との対比からダーウィンのビーグル号航海中の思想的成長を確認する第1章,自然淘汰説と結婚のエピソードをダーウィン思想の核心部分として解説した第2章と第3章,「分岐の原理」と自然淘汰説との繋がりを解明した第4章(ここは「棲み分け理論」への批判でもある),神の前提なしに動植物の機能やデザインを扱いラン研究を例に論じた第5章,人間と動物を連続に扱うというダーウィンの道徳起源論を最近の研究成果を踏まえて検証した第6章,である。
評者は,とくにマルサス人口論』との関係を論じた箇所(第2章と第4章)とイギリス経験論(ヒューム)からの影響を論じた箇所(第2章)に注目してみた。ダーウィンマルサス人口論』を読み自然淘汰理論を着想したという定説を踏襲しつつ,妻との結婚に逡巡して「ぐずぐずしている間に」(47ページ)読んだというエピソードを挟み,さらに,同じマルサスから人間の道徳感覚に関して,社会が道徳感覚なしに存続しえないという洞察を得たという知見を加えている。また,ウォレスもダーウィンと同じようにマルサスからヒントを得て,自然淘汰の統計的原理性を見たことにダーウィンに比べての明晰性を指摘している。
ヒュームとの関係については,「資料が少なくてまだ十分には論じられない」(55ページ)が,ヒューム『人間本性論』「動物の理性について」ですでに,個体発生と種の伝播や本能との関係について,テーマ先取りさえしているとしている。いずれも思想として読むという著者の特徴があらわれたところだ。
「相互利他性」(そういえば最近チンパンジーの実験で話題になった)や「協力行動」というゲーム理論の応用という現代の知識を援用しながら,人間と動物,人間の道徳を論じることでダーウィン思想の一貫性を確認している。
ダーウィン思想の思想性を論じるという著者の問題意識は,なるほど「ダーウィンの革命」(212ページ)を鮮明に描いている。