347「起原」と「起源」は同じか

瀬戸口烈司「ダーウィンの著作は『種の起原』か,『種の起源』か」(『UP』第39巻第6号(通巻第452号),2010年6月)を読む。昨年 Origin of Species 刊行150周年を迎え,新訳『種の起源』(渡辺政隆訳,光文社)が出版された。タイトルに「起源」を充てた稀有な例であり,多くの訳書は「起原」を使っているという調査結果をまとめていた。15種類の訳書のうち14種類は「起原(起源)」と表記し,そのうちの13種類は「起原」であり,「起源」とするのはただ一種類だったとのことだ。
すべてまとめると以下のようになる。最初の訳書からは松平訳,渡辺訳を例外として「起原」と表記されていることになる(「起源」を赤色にしてある)。

タイトル 訳者 出版社 出版年
生物始源一名種源論 立花銑三郎 経済雑誌 1896
種之起原 丘浅治(「次」の誤記か?)郎 東京開成館 1905
種の起原 大杉栄 新潮社 1915
種の起源 松平道夫 太陽堂 1920
種の起原 内山賢次 春秋社世界大思想全集27 1927
種の起原 小泉丹 岩波書店 1929
種の起原 内山賢次・石田周三 白揚社ダーウィン全集II 1939
種の起原 内山賢次・石田周三 改造社ダーウィン全集5 1948
種の起原 内山賢次・石田周三 創元社 1952
種の起原 内山賢次・石田周三 河出書房世界大思想全集33 1954
種の起原 堀伸夫 CLARTE 1948
種の起原 堀伸夫 槇書店 1958
初版 種の起原 徳田御稔 三一書房 1959
種の起原 八杉竜一 岩波文庫 1963
種の起原 堀伸夫・堀大才 槇書店 1988
種の起原 堀伸夫・堀大才 朝倉書店 2009
種の起源 渡辺政隆 光文社 2009

瀬戸口稿は丘の『動物学雑誌』でのダーウィン紹介記事を調査し,訳書に「起原」と表記しながら,「起源」としていたことを突きとめている。また丘『進化論講話』でも「起源」と表記しており,訳書に「起原」としたことを「大いに謎として残る」と記している。
瀬戸口稿はこの発見をすでに「深田地質研究所ニュース」第106号に「ダーウィンの名著は『種の起原』――『種の起源』ではない」を書かれていて,それをふまえたのが今回稿。
このエントリーでは「起原」「起源」に無自覚に「起源」と表記してきた。いずれにしても瀬戸口稿が指摘するように Origin of Species は『種の起原』表記が多数を占めることを確認しておこう。