706宮本みち子著『若者が無縁化する――仕事・福祉・コミュニティでつなぐ――』

書誌情報:ちくま新書(947),214頁,本体価格760円,2012年2月10日発行

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若者の貧困問題を論じる前提は「相対的貧困論」である。お金がないために人との繋がりを保持できない,労働市場や社会活動に参加できない,衣食住に不自由しみじめな思いをする,人間としての可能性を見いだせない,安心して子育てできないなど「社会的,文化的な条件の欠如」(7ページ)を意味している。子どもの貧困(7人に1人)や準義務教育化している高校段階での中退者の増加は親の所得が減少したことによる。労働から排除された若者ホームレスの現状はかつての「独身貴族」や「パラサイトシングル」という言葉を過去のものにした。労働問題や雇用対策だけでなく,家族支援や福祉,医療も含めた「包括的支援」の必要性を説いている。雇用政策・若者就業支援政策,教育政策,若者支援サービス,社会保障制度といった若者を全体として包摂する制度である。
国際的な若者対策を検討することから見えてきた日本の課題は,教育と労働市場の連携強化,若者向け公共職業訓練の拡充,正規労働者と非正規労働者身分保障・経済格差の減少,教育・訓練・情報提供・求職活動支援などの積極的労働市場プログラムの強化である。政府の施策(ジョブカフェや求職者支援制度など)を一定評価しつつ,単年度事業であることや子ども期から若者期を通しての一貫した支援体制になっていなことから,釧路市の自立支援,社会的企業(例として横浜の株式会社K2インターナショナル),NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡,オーストラリアのユース・パスウェイ,イギリスのコネクションズ・サービス,横浜の若者自立支援策などを例に「雇用レジーム」から「福祉レジーム」への転換を主張している。「人生後半の社会保障から,人生前半の社会保障への転換」(194ページ)である。
社会的排除から社会的包摂へ。若者問題は若者だけの問題ではないことを解決策のなかに見ることができる。