403青砥恭著『ドキュメント 高校中退――いま,貧困がうまれる場所――』

書誌情報:ちくま新書(809),237頁,本体価格740円,2009年10月10日発行

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毎年10万人近い高校生が中退しているという。公立高校の授業料減免者が22万4000人(2006年度),就学援助を受けた小・中学生が140万人(13.3%,2007年度)で,ここ10年間で2倍になっている。これはけっして自己責任ではない。しかし,中等教育のこうした現状が主要な政策課題になっていない。中退者が多い東京でも大阪でも。
高校中退は学びを続けたくて進学したわけではないが,進学するしか行き場がないがゆえの悲しい結末である。小学校高学年から学びについていけなくなり(「9,10歳の壁」を乗り越えられず),そのまま小学校を「卒業」し,中学校を「卒業」した結果でもある。家族がみな高校中退であるとか,二世代にわたって母子世帯であるとか,10代の出産であるとか,ここには高校中退と貧困の連鎖がいくつも描かれている。
2008年6月末のNHK「ニュース・ウォッチ9」の特集,新聞での報道,2009年3月8日放送のNNN「ドキュメント高校中退」などでようやく本人の努力不足による高校中退論から貧困に結びついた高校中退論へとシフトし,さらに著者のデータ分析によって貧困と低学力・中途退学との強い相関が論じられるようになった。
著者は,高校中退は子どもの発達を阻害する条件が複合的に重なっていることを指摘しつつ,貧困を背景とする低学力と意欲のなさに高校中退の要因をもとめている。そのうえで高校中退を少なくするためには小中学校での基本的な学力をつける仕組み,学習意欲が全くない生徒を出す仕組みを提案している。「子どもにとって安心して学べないことこそ最大の子どもの貧困」(229ページ)が現実に存在している日本とは,社会的排除を内包するとてつもない国ともいえる。高校中退問題は一教育問題ではなく,社会問題の縮図である。本書のドキュメントが突きつける課題は重い。