日本学術会議のメール・ニュースから会長が「若者の就職問題について」の談話を発表したことを知った(pdfファイル→http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d10.pdf)。
締め切った国公立大学の志願状況を見ると,人文系学部の倍率が下がっているようだ。「若者の就職問題」と無縁ではない。
今春卒業予定の大学生の就職内定率が,調査を開始した15年前以降で最低の水準にあることが大きく報道されています。卒業後の就職先が未定なままの大学生の皆さん,あるいは前年度までの卒業生で,いまなお就職活動を継続している人達,さらには高校生の就職未定者の諸君など,多くの若者が苦しい状況に身を置いている現状に,心を痛めています。
昨年7月,日本学術会議は文部科学省からの審議依頼に応えて「大学教育の分野別質保証の在り方について」と題する報告書を取りまとめ,若者の就職をめぐる近年の厳しい状況を直視して,大学教育と職業選択との接続の在り方に関する提言を行いました。特に,例えば卒業後3年ほどの学生は「新卒」扱いにするなど,企業の採用要件の緩和について提言した考え方は,メディアでも大きく取り上げられました。政府も,昨年から各種の対策を一層積極的に打ち出していただいています。日本学術会議の提言に呼応するように,経済界においても,採用活動の過度の早期化の見直しや,既卒者の採用を拡大する動きが出ているのは,大いに歓迎すべき進展であると考えています。今後もこのような取組みが,各方面で強化されることを切望しています。
振り返ってみれば,就職活動の過度の早期化傾向は,大学における本来の学びを就職活動が阻害する危険性が高く,大学本来の在り方に照らして大きな問題があると考えざるを得ません。近視眼的な「就活」対策ではなく,専門分野の教育を含めた教育全体の職業的意義を向上させ,学生諸君が主体的に自らの将来を選び取り実現していく潜在的な可能性を拡大するために,大学としても必要な措置をさらに充実して行くことが求められています。日本学術会議としても,各大学の取組みを積極的に支援していきたいと思います。
当事者の学生の皆さんに対しても,考えて欲しいことがあります。第1に,早期の「就活」を理由にして,大学ならでこそ可能な深い学びをおざなりにすることは,二度とない貴重な時間を浪費する危険性が高いことを十分に理解して欲しいと思います。第2に,大学卒業後も3年の間は新卒扱いになったとしても,この期間を漫然と過ごすのではなく,自らの見聞や見識を高めるために有意義に活用して欲しいと思います。短期であっても留学などによって海外の異文化に触れて見聞を広める,あるいはボランティア活動に参加して他の世代や他の地域の人々と深く交わる経験から学ぶなど,この期間を活用して人生を豊かに充実させる可能性はいくらでもある筈です。若い人達が,自ら課題を発見して積極的に挑戦する姿勢を示すことに呼応して,経済界のみならず政府や大学などがその努力を適切に評価することに,私は期待したいと思います。このような好循環が生まれることによって,若い世代の就職問題が少しでも良い方向に回り始めることを,心から願っています。
平成23年2月2日
日本学術会議会長
金澤一郎
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