434藤本實也著(三溪園保勝会・横浜市芸術文化振興財団編)『原三溪翁伝』

書誌情報:思文閣出版,936頁,定価16,800円,2009年11月刊行

原三溪翁伝

原三溪翁伝

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猿渡紀代子「粋で多才 原三渓の美学――横浜の名園造成,画家のパトロンにして公共貢献――」(日経新聞,2010年2月4日付け「文化」欄)でも紹介されていた。
藤本實也によって64年前に書かれていたもので,長らく横浜のホテルニューグランドの金庫に保管されたままになっていたそうだ。「事業と生涯」,「公共貢献」,「性格と趣味」の3篇構成のうち「公共貢献」では,「三渓園」の章がある。原三渓(1868年〜1939年)の名は,17.5ヘクタールの敷地をもつ横浜の「三渓園」に継承されている。生糸貿易で財をなし,「遊覧御随意」と私邸を無料で開放した。「三渓園の土地は確かに自分の所有物ではあるが,その穏やかで美しい自然の風景は造物主の領域にあって,自分が所有するものではない」(猿渡)との考え方からであった。
没後70年にして陽の目をみた評伝は,戦時中に書き上げた藤本の努力と刊行の原動力になった「原三渓市民研究会」の地道な読解作業との時間を超えた共同作業の成果である。
三渓園には一度だけ駆け足で回ったことがある(下記エントリー参照)。明治期生糸貿易のもつ桁違いの財力を背景にした原三渓の,市民活動や美術などへのパトロネージぶりがよくわかる。