118フランシス・ウィーン著(中山元訳)『マルクスの『資本論』』

書誌情報:ポプラ社,212頁,本体価格1,500円,2007年9月20日

マルクスの『資本論』 (名著誕生)

マルクスの『資本論』 (名著誕生)

  • -

著者はかつて『カール・マルクスの生涯』(田口俊樹訳,朝日新聞社,2002年9月1日,asin:4022577746)でマルクスの生涯を追った。本書はマルクスの主著『資本論』について,成立のプロセス,第1巻の解説,マルクス死後の批判と受容について論じたものだ。著者の理解した言葉でわかりやすく解説している。「本書はこれから『資本論』の標準的な入門書になるであろう」(本書収録の佐藤優の解説「『資本論』の論理で新自由主義を読み解く」)かどうかはともかく,『資本論』を読んでみようという読者にとっては参考になろう。
資本論』成立のプロセスについては,マルクスの生涯のエピソードを交え,経済学研究にいたる道を辿っている。『資本論』解説は第1巻に限られ(その理由は,第2巻と第3巻はマルクスの草稿をもとにエンゲルスが編集したからだ,と読める),かつ,価値形態論にかんするマルクスの説明の「奇妙」さや「限界」を指摘したものだ。著者の唯一批判的コメントを差し挟んだ個所でもある。全体として『資本論』第1巻のエッセンスをよく消化していると思う。マルクス死後の批判と受容については,西欧社会のそれに絞っており,「特異な性格の著作」であるがゆえに『資本論』の趣旨に沿った理解はまだされていないと結ぶ。
本書についての原書の書誌情報が一切記されていない。日本語版のための著作なのかどうかもはっきりしない。また,日本での『資本論』の批判と受容についても触れられていない(佐藤優も指摘している)。マルクス(とエンゲルス)の著作についての「歴史的-批判的全集」である新MEGAの刊行もまったく無視だ。さらに,本書に付けられた訳注のマルクス関係邦訳書は大月書店版全集と筑摩の『マルクス・コレクション』だけだ。『経済学批判要綱』にいたっては,『資本論草稿集』として新MEGA版に基づいた新訳ではなく高木幸二郎監訳の大月書店旧版だ。ときに新MEGAも参考にしたとの訳者の言葉には疑問なしとしない。どの翻訳書を参考にするかは翻訳者の裁量だ。しかし,現存する書誌を無視するのはいささか問題がある。