281基礎経済科学研究所編『時代はまるで資本論――貧困と発達を問う全10講――』

書誌情報:昭和堂,xvi+292頁,本体価格2,400円,2008年12月25日

時代はまるで資本論

時代はまるで資本論

  • 発売日: 2008/12/01
  • メディア: 単行本

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資本論』はたしかに資本のもとへの労働者の包摂を告発した書物である。それと同時に,働きがいのある人間らしい社会の創造への提起を多く含んでいる。前著『ゆとり社会の創造――新資本論入門12講――』(昭和堂,1989年,[isbn:9784812294161])は,『資本論』のなかにゆとり社会の創造を読み込む試みだった。20年経って,格差と貧困があらためて問題になっている現代に,『資本論』を照射してみようというのが本書だ。
過労死,ワーキングプア,情報技術革命,消費社会論,ベーシック・インカム論,人間発達論,東アジアの本源的蓄積,未来社会の問題などと『資本論』(とくに第1巻第8章「労働日」や第13章「機械と大工業)とを絡み合わせ,叙述に多少の重複はあるものの,この民間研究所の特徴を前面に出したものとなっている。執筆者のうち数人は「働きつつ学び研究」してきた労働者研究者というのも類書にないところだ。
グローバリゼーションと新自由主義という『資本論』時代にはなかったかのように見える時代にあって,「時代はまるで資本論」とは歴史の皮肉ではない。たんなるマルクスや『資本論』の復権という陳腐な言域を超えての人間発達の条件は再発見できるかどうか。読者への挑戦的書物ともいえるかもしれない。