105都立の大学を考える都民の会編『世界のどこにもない大学――首都大学東京 黒書――』

書誌情報:花伝社,181頁,本体価格1,600円,2006年9月25日

世界のどこにもない大学―首都大学東京黒書

世界のどこにもない大学―首都大学東京黒書

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2005年4月は大学史においてひとつの転機を示す日付となった。ひとつは国立大学法人化であり,いまひとつは首都大学東京の開学である。首都大学東京は,東京都立大学,短期大学,科学技術大学,保健科学大学の4大学が首都大学東京に統合され,公立大学法人首都大学東京の下に置かれることになった(旧都立4大学は2010年度まで新大学と併存する)。
都立の大学を考える都民の会は,東京都による都立の大学改革の進め方に憂慮する有志で組織された(2003年11月1日設立)。本書は,首都大学東京第1回入学式での石原慎太郎東京都知事のことば「こんな大学はないぞ! 世界には。東京にしかない。たった一つしかない。それがこの大学なんだ」とは裏腹に多くの問題を抱える大学であることを告発した書物だ。タイトル「世界のどこにもない大学」には精一杯の皮肉が込められている。
本書の構成は,「首都大学東京の虚像と実像」(第1章),「東京都による大学『改革』の経緯」(第2章),「都立の大学『改革』の背景」(第3章),「『二一世紀の公立大学』とはどうあるべきか?」(第4章)となっている。問題点の抽出(第1章),経緯(第2章),背景(第3章),公立大学の将来像(第4章)とまとめることができる。このなかで第3章(源川真希執筆)では,石原都政の「復古主義的傾向」と「ネオ・リベラル型ポピュリズムの性格」を指摘し,竹内洋教養主義批判を「教養主義とされるものをポピュリズムに依拠して批判し,それによって自己の『学』的位置を高めようとしている」(127ページ)と整理し,かつ国立大学法人化と公立大学法人化を大学版構造改革と明確にしている。
進行中の大学「改革」はひとり大学という小宇宙で完結するものではない。大学問題に関心をもつ多くのひとに読んでもらいたい一書だ。
参考ウェブ:都立の大学を考える都民の会ホームページ(http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Lounge/3113/