644橘木俊詔著『京都三大学 京大・同志社・立命館――東大・早慶への対抗――』

書誌情報:岩波書店,vii+246+4頁,本体価格2,600円,2011年2月25日発行

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京都の代表的な3大学を歴史的に振り返り,現代での変化を論じ,東京一極集中への対抗大学として期待する問題意識は強く感じることができた。
「全国一位の東大,西日本の雄・京大」と経済界で活躍する分野を除いて,入学生の学力,教員の研究と教育,卒業生の活躍度などでいまや京大は東大に大きく水をあけられている,というのが著者の見立てである。京大は教育方法を見直し,研究資金をいかに集めるかという対東大戦略を練り直せという。対抗心を煽るあまり,入試方法をめぐる京大の姿勢を英断かのように評価している。国立大学が入試日程を自由に決めていいのなら話は別だが,国大協の決まり事を破ったのが京都大学だった。
同志社は創設時期には日本を代表する人物を輩出していたが,ごく普通の善良な精神に満ちた市民養成に落ち着いてきており,立命館は夜間部の開校を特色とするその色を消し,私学の中でも際立つ拡大路線に舵を切ったとまとめている。
本書の歴史的分析にしても現代的変化の描写にしても,意外に通俗的大学論の域を出ていない。研究・教育に注目したという言葉を裏付ける研究体制やカリキュラム内容などへの立ち入った分析がないからである。
東大・京大,早慶・同立のライバル物語として読むに越したことはない。