636ミル著(竹内一誠訳)『大学教育について』

書誌情報:岩波文庫(城116-10),177頁,本体価格540円,2011年7月15日発行

大学教育について (岩波文庫)

大学教育について (岩波文庫)

  • 作者:J.S.ミル
  • 発売日: 2011/07/16
  • メディア: 文庫

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「いまなお燦然と輝く教養教育と大学論の古典」(竹内洋の解説,177ページ)である。翻訳としては『ミルの大学教育論――セント・アンドルーズ大学名誉学長就任講演「教育について」――』(竹内一誠訳,御茶の水書房,1983年5月,[ASIN:B000J7EH9Y])があった。このうち講演の翻訳と訳注を収録したものが本書であり,大学やリベラル・アーツの議論が熱く語られる時期に適った翻訳である。
J・S・ミルがスコットランド最古の大学(1413年創立)であるセント・アンドルーズ大学――どこかの王子もここで学んだ――の名誉学長就任講演である。一般教養と知識の体系化の大切さを説く教養教育論・大学論であり,学問のあり方を問う演説であった。1867年2月1日と記録される演説はミルが亡くなる6年前,60歳のときのものだ。「諸君は今こそ,商売上のあるいは職業上の瑣末事よりもより重大ではるかに人間を高尚にする主題についてある程度の見識を獲得し,人間のより高度な関心事すべてに諸君の精神を活用する術を習得すべき時期」(131ページ)と鼓舞し,「報酬が与えられるなどということを考えなければ考えないほど,われわれにとってはよりよい」(134ページ)と結ぶミルの理想は高い。
ギリシャ語とラテン語を「知性の訓練にとって価値ある言語」(43ページ)と称揚し,西洋的常識論の延長で論じたミルの舌鋒のエリート臭さはあるにしても,立ち返って「みる」意味はあろう。