書誌情報:文藝春秋,335頁,本体価格1,500円,2013年2月15日発行
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時系列から言えば,『文藝春秋』2013年1月号→NHKスペシャル「沢木耕太郎推理ドキュメント 運命の一枚――"戦場"写真 最大の謎に挑む――」(関連エントリー参照)→本書となるが,評者の順は『文藝春秋』2013年1月号はパスして(図書館で見て単行本になることを知った),NHKスペシャル→本書となった。
結果的にはキャパの虚像を剥ぐことになった。同じノンフィクションでありながら,件の橋下問題の佐野某と違うのは扱う人物への著者の姿勢だろう。「写真は嘘をつく」(75ページ)ことになったキャパの「崩れ落ちる兵士」の真実を詳述した著者は,キャパに寄り添いながらアンドレ・フリードマン(キャパの本名)からキャパになった一枚の写真をとことん追求した。そうすることで,「「崩れ落ちる兵士」の呪縛つまりキャパの十字架から」(315ページ)解放された深層を追うことがたんなる暴露にとどまらない佳作に繋がっているのだと思う。
あの写真の場所の特定(先行研究があった),銃弾によって倒れたのではなくしかも偶然の出来事だったこと,二台のカメラと二人のカメラマンがいたこと,丘の窪地から斜面上で撮られていること,カメラはローライフレックスでゲルダが撮ったことという著者の結論はキャパの背負った重い十字架を明らかにした。ベトナムで地雷を踏むことになったキャパの人生と交差しているのだ。
「ゲルダの死(スペイン内戦時に共和国軍の戦車に轢かれて死んだ:引用者注)という耐えがたい悲劇が,自分にとっての幸運をもたらしてもいる」(202ページ)という「一生,口にすることはできない秘密」(同上)を背負い込んだキャパの苦悩が伝わってくる。
嘘をついたあまりにも有名な写真から歴史に名を残した著名写真家の生き様を抉ったすばらしい作品だ。
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