書誌情報:八坂書房,221+vi頁,本体価格2,400円,2009年11月25日発行

- 作者:チャールズ・ホーマー ハスキンズ
- 発売日: 2009/11/01
- メディア: 単行本
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原著(1957年)は著者(1870-1937)のブラウン大学での講義(1923年)を収めたものである。本訳書も新訳ではなく,法律文化社(1970年)および社会思想社教養文庫(1977年)を経た版である(教養文庫版をもとに図版を適宜差し替え・増補したもの)。
中世に起源をもつ大学(パリとボローニャでの高等教育のギルド)はもともと図書館や実験室や博物館,大学自身の基本財産や建物をまったく持っていなかった。教師と学生の組合としての組織が大学だった。それでも有形物を持っていない中世の大学は「根本的な組織」と「歴史的連続性」において現代の大学に連なっている。最初期の大学の起源を制度,教育,学生生活から描写した本書は大学進学率50%を超えた現代だからこそ参照されていい。
大学の誕生は知識を中世初期の7つのリベラル・アーツ(本訳書では「自由学芸」。文法,修辞学,論理学,算術,天文学,幾何学,音楽)から解放した時に始まる。のちに学部を構成する学芸(アーツ),法学(教会法),医学,神学がその由来を示している。さらに学位や学部長・総長(学長),学寮(カレッジ)も中世の大学の名残である。おもしろい規則が紹介されていた。教授は一日たりとも許可なしに休講してはならない,もし町の外に出たいと思えば必ず戻るということを保証するために供託しなければならない,正規の講義に5人の聴講者を確保できなかったら休講の場合と同様に罰金に処す,などなど。教師と学生とのギルドから始まったのだから当然といえば当然なのだろう。著者は大学は依然として「学生たちの訓練」と「学問と研究の伝統の維持」において大学に代わる制度(組織)は見出されていないと結んでいる。
中世の大学においては哲学と神学以外においては一般に自由に講義できたことが紹介されている。社会科学が成立していないと同義である。「中世の教授はだれも自由貿易や銀貨自由鋳造や社会主義や無抵抗主義を説いたかどで非難されたことはなかった」(96ページ)。学問の自由の現代的な定義を「自分の言うことを考えずに自分の考えることを言う権利」(100ページ)と敷衍し,学問の自由,教育の自由と神学上の論争を振り返ったいる。
当時の学生の日常生活を紹介している箇所は今も昔も変わっていないと思わずくすりとした。喧嘩沙汰,金貸しや教科書販売での暴利をむさぼる学生,貧乏学生,親に金を催促する学生(中世の学生の手紙は圧倒的にこの「金」だそうだ)等々。「金銭や衣服,下宿部屋,教師,書物,陽気さや良き友達というものは,あらゆる時代,あらゆる場所での関心の的」(147ページ)ではあるが,「今も昔も,大学の精神的品質というものは,そこの知的生活の烈しさと真剣さとにかかっている」(146ページ)。
「中世の学生は,その人生と学問とに対する関係で,しばしば想像されるよりもはるかに現代の学生に似ていた」(148ページ)。中世においても現代においても学問への欲望は理想化できないほど「鈍い」。
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