書誌情報:藤原書店,273頁,本体価格3,800円,2008年9月30日発行
- 作者: 山田鋭夫
- 出版社/メーカー: 藤原書店
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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資本主義は市場にもとづくパフォーマンスだけでなく,政治・労働・教育・社会保障・文化などの諸制度によっても特徴づけられる。前者を資本原理,後者を社会原理と呼ぶとすれば,資本なき社会や社会なき資本はありえず資本なき市場もありえない。一国資本主義が諸制度の集合としてあるかぎり,各国の相互比較と類型化が可能となる。
著者の書き下ろしによる本書は,制度補完性(ある領域のある制度の存在・機能が他の制度の存在・機能によって強化されるとき,ふたつの制度には補完性があるとする)に注目した比較資本主義分析史であり,そこから見える日本資本主義論である。比較する視点は19世紀のドイツ歴史学派以来存在する。著者は,それを以下マルクス,20世紀マルクス主義,日本資本主義論争,戦後欧米と日本(宇野理論と大塚史学)の社会科学,グローバリズム時代の現代にまとめ,多様性(本書の「さまざまな」はこの意味である)と構造変化と趨勢変化の摘出に意義を見いだす。
著者は日本におけるレギュラシオン理論の紹介とそれによる資本主義分析で知られている。本書での著者の方法論はレギュラシオン・アプローチである。ただし,著者の叙述は,比較制度分析,資本主義の多様性論,ガバナンス・アプローチなどを消化したうえで,最終的に5類型(市場ベース型,アジア型,大陸欧州型,社会民主主義型,地中海型)を経て,企業主義的レギュラシオンを装備した日本資本主義分析にいたる。著者の比較資本主義分析は資本主義の多様性を,日本資本主義の未来が現在のアメリカにないことを示唆している。同時に,「企業主義を社会原理と折り合わせる道」(227ページ)を提起しえるかぎりでは,レギュラシオン理論の未完成性を率直に語ってもいる。
「レギュラシオン理論は『制度』を重視するマクロ経済学」((52ページ)・「歴史的制度的マクロ経済学」(53ページ)とするレギュラシオン理論の解説や「比較資本主義分析の最高の到達点のひとつ」(複数ページ)とする資本主義多様性論の検討,いくつかの先行する比較資本主義分析論への切り込みは,資本主義の「さまざま」性を浮き彫りにしている。著者が執拗に描く資本主義の「さまざま」性は,タイトルのベタ感を決して裏切っていない。