302ジョン・トーピー著(藤川隆男監訳)『パスポートの発明――監視・シティズンシップ・国家――』

書誌情報:法政大学出版局(サピエンティア04),xiv+274+49頁,本体価格3,200円,2008年12月12日発行

パスポートの発明―監視・シティズンシップ・国家 (サピエンティア)

パスポートの発明―監視・シティズンシップ・国家 (サピエンティア)

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あらためて自分のパスポートを見てみた。表に「日本国(改行)旅券」,菊の紋章があり,さらに'JAPAN / PASSPORT'とある。
表紙裏には以下の文章がある。

「日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ,かつ,同人に必要な保護扶助を与えられるよう,関係の諸官に要請する。」

「日本国外務大臣」と印章があり,英語が書かれている。

The Minister for Foreign Affairs of Japan requests all those whom it may concern to allow the bearer, a Japanese national, to pass freely and without hindrance and, in case of need, to afford him or her every possible aid and protection.

字面からはすくなくとも日本国がわれわれを掌握する,管理する意味合いはなく,外交的機能が前面に出ている。ところが,パスポートには,本書の法制度や議会資料の分析が示すように,国家による国民管理が目的であった。国内の移動と国民国家を越えた移動は,もともと自由ではなかった。パスポートはその自由を簒奪してきた表徴とみることもできる。変わったのは,簒奪者が自治体や封建領主から近代国家になったこと。
経済学では生産者の生産手段からの歴史的分離過程を資本の本源的蓄積という。個人の交通手段からの歴史的分離過程はパスポートの発明ということができるかもしれない。
われわれは自分の国から出国し帰国する権利をもつ。同時に,国家は出入国を管理する権利をもつ。1冊のパスポートは歴史と現代国家のありようを表現している。新鮮な発見だった。