479大木裕子著『オーケストラの経営学』

書誌情報:東洋経済新報社,201頁,本体価格1,600円,2008年10月30日発行

オーケストラの経営学

オーケストラの経営学

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日本にはアマチュアのオーケストラが学生オーケストラを含めて約700あり,日本オーケストラ連盟に所属する23のプロフェッショナル・オーケストラ(ほかに準会員や音楽家ユニオンに所属する5団体)があるという。8のオーケストラが東京に本拠をもち,首都圏を合わせると10だそうだ。日本のオーケストラのいわば一極集中の指摘はある。それを文化享受の偏在として取り上げられないのはオーケストラの経営分析とあればいたしかたない。
ヴィオラ奏者だった著者によるオーケストラの紹介とオーケストラのマネジメント論が特徴だ。オーケストラの現場にいればこそ語れる楽器,指揮者,演奏者などのエピソードがおもしろい。
経営からみた日本のオーケストラを,「ヨーロッパ的でもアメリカ的でもない,中途半端な経営」(98ページ)とし,「日本のオーケストラが目指すべきは,寄付が活発なアメリカ的モデル」(111ページ)とする。比較する軸のひとつにフランスをあげ,「フランスはオーケストラを国が財政的に完全にバックアップし,運営組織もしっかりしている」(156ページ)と評価する。もっともこれはオーケストラの理想としてはフランス型を目指すべきで,公的支援システムの確立には時間がかかるので,当面はアメリカ型だという限定がつく。
オーケストラの経済学的叙述は評者の知るレベルをさほど超えていないものの,オーケストラを丸ごと社会科学の対象にしたところに独自性がある。隔年で「文化経済学」を担当する評者の視点からは,オーケストラの組織論やマネジメント論よりも文化芸術のひとつとしてのオーケストラが持つ非市場的価値を再確認できた。文化経済学も比較的新しい分野(文化経済学の系譜は経済学ともに古い)だが,ひょっとすると文化経営学も成り立つ可能性を感じた著作だった。