556小尾俊人著『本は生まれる。そして,それから』

書誌情報:幻戯書房,381頁,本体価格3,800円,2003年2月5日発行

本は生まれる。そして、それから

本は生まれる。そして、それから

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戦前羽田(はた)書店に入店し,戦後友人ふたりとみすず書房を興した。その著者による,執筆者,印刷社,取次,書店,古書店,書評誌紙,図書館など出版にかかわる話題を綴り語った「書物礼賛」。最終ページに記してある本書を成り立たせているひとつひとつのものの記録がいい。

挿画:瀧口修造/装丁:緒方修一
使用文字:ニュー精興社タイプ9.5ポイント/本文洋紙:オペラクリーム・A判T目43kg/挿図写真:リサイクルマット100・菊判T目62.5kg/カバー:OKミューズガリバーエクストラ・ナチュラル・四六判Y目135kg/表紙:グムンドカシミア・白・T目90kg/別丁扉:こもん・白・菊判T目62.5kg/見返し:グムンドナチュラル・樹皮・T目80kg/帯:OKミューズガリバーエクストラ・アイボリー・四六判Y目110kg

2010年は電子書籍元年と言われ,紙と非・紙との対比がとかく注目される。紙の本を作る文字種,大きさ,紙の種類,その目など造形美はどうしても後背に退いてしまう。問題になるのはせいぜい文字の可変性だけである。
同じ出版社の本でもどの文字を使うかによってまったく趣が違ってくる。みすず書房岩波書店,未來社などで親しんだ精興社書体の活字は「細身かつ端麗なツルのおもむきがあり,華奢でありまた上品」(223ページ)だ。
書物を支えてきた黒子の存在を知り,電子書籍に活かせるかどうかは,読者の視点が欠かせない。『ロマン・ロラン全集』や『現代史資料』などみすず書房が手がけた出版物のエピソードが本書の中心なのだが,一書肆の経験はたとえ紙の本がなくなる時代が来たとしても別の形で甦るような気がする。
評者が最近好んで使う,「新しい,すばらしい著者,執筆者というものは,すでに存在した知的素材にサムシングを加えたものでなければならない」とはさきに取り上げた『出版と社会』(関連エントリー参照)からだった。