581小林正弥著『サンデルの政治哲学――<正義>とは何か――』

書誌情報:平凡社新書(553),375頁,本体価格940円,2010年12月10日発行

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5回にわたるサンデルの全著作についての講義(東京財団・オールアズワン共催「マイケル・サンデルの『正義と善』――その政治哲学の全貌――」)に加筆修正したもの。「白熱教室」と『これからの「正義」の話をしよう』の内容を概説した部分,『リベラリズムと正義の限界』・『民主政の不満――公共哲学を求めるアメリカ――』・『完成に反対する理由』・『公共哲学』を繙き,リベラリズム批判・アメリカの公共哲学・生命倫理・公共哲学を解説した部分とからなり,サンデルの思想的展開と著者の解釈が提示されている。
「白熱教室」と『これからの「正義」の話をしよう』では禁欲されていたサンデルの主張をほぼ時系列に追いながらサンデルが追求する美徳型正義の筋道がくっきりと描こうとしている。
ロールズとサンデルの正義論を対比(ロールズの「魔術」とサンデルの「負荷ありし自己」),公共領域を再生させるコミュニタリアニズム的共和主義の主張,ユダヤ教的神学にもとづく生命倫理観,コミュニタリアニズムヘーゲル的要素などサンデル政治哲学の骨格と特徴を抽出し,「善」(倫理性・精神性)と「共」(共通性)という最重要な概念を浮かび上がらせている。
サンデル『民主政の不満』を紹介・解説している箇所で著者みずから「非常に新鮮で啓発的」(203ページ)と評価している論点がある。アメリカの共和主義的伝統に触れ,「共和主義の消滅と現代リベラリズムの興隆が決定的となった瞬間」・「”「公民性の政治経済」から「経済成長と再分配(分配的正義)の政治経済」へ”という変化が生じた,まさのその瞬間」をケインズ経済学の登場・ケインズ的経済政策にしていることである(201〜202ページ)。革新主義には共和主義的要素があるが,ケインズ主義によってその流れが断ち切られリベラリズムが勝利したというのだ。「ケインズ経済学はリベラリズムに対応する経済学であり,「善き生」の考え方とは切り離されたリベラルな経済学」・「善なき経済学」(203ページ)というのだ。
『公共哲学』のなかではケネディ政権下のアメリカン・ケインジアンではなく(うえのケインズ経済学評価とかかわってリベラリズムの政策と一蹴),公民性にかかわる重要な問題提起をしたとして弟のロバート・ケネディへの高い評価を紹介している。「善」にかかわる要素を含むか否かがサンデルの観点ということになる。
コミュニタリアニズムという「知」と美徳の復興はなるほどネオ・リベへのオルタナティブの可能性をもっているにちがいない。