594有川浩著『県庁おもてなし課』

書誌情報:角川書店,461頁,本体価格1,600円,2011年3月31日発行

県庁おもてなし課

県庁おもてなし課

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2011/03/29
  • メディア: 単行本

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「海も山も川も,祭りも歴史も。四国には(観光資源が)いくらでもある」「四国には何でもあるが,沖縄の海,北海道の大平原のようなホームランバッターがいない」(日本観光振興協会四国支部長・梅原利之,日経新聞2011年4月28日付「四国経済」より)。
逆手にとって「ないないづくし」でアピールしたのが高知県だった。「新幹線はない。/地下鉄はない。/モノレールも走っていない。/ジェットコースターがない。/スケートリンクがない。/ディズニーランドもUSJもない。/フードテーマパークもない。/Jリーグチームがない。/ドーム球場がない。/プロ野球公式戦のナイターができん。/寄席がない。/2千人以上の屋内コンサートができん。/中華街はない。/地下街はない。/温泉街もない。/金もない。/…けんど,/光はある!」(高知県商工労働部観光振興課発行のガイドから。本書にも出てくる)。
高知県出身の著者による高知県庁に実在する「おもてなし課」を素材にしたフィクションは地方の観光振興に思いを込めた一書だ。学芸通信社の配信による新聞連載(高知新聞山梨日日新聞岩手日報南日本新聞,北海民友新聞,福島民友新聞上越タイムス)ネタも小説に織り込み,県庁マンと売れっ子作家のそれぞれの恋の行方と「おもてなし課」の奮闘振りを描いている。
「パンダ誘致論」で県庁を放逐された清遠和政に「客は胃袋で掴め」を,売れっ子作家(著者の分身,ただしこちらは男)に「トイレ偏差値」を,主人公の「おもてなし課」掛水史貴(かけみずふみたか)に「薄く広い設備投資と情報発信システムの整備,道路標識や案内板の拡充」を,掛水がリクルートした民間出身の吉門多紀にブランド力の集合価値を,それぞれ語らせている。
「実現できない理由を並び立てるのではなく,実現するにはどこを押し引きすればいいのか粘る。一気に大きく変えることは無理でも粘ることに意味はあるはずだ」。カッコよく成長した掛水の言葉がいい。
著者のブログによれば,本書を含む単行本すべての印税を東北地方太平洋沖地震の被災地に寄付するそうだ(→http://blogs.yahoo.co.jp/f15eagledj0812/2328565.html)。