710大森信著『トイレ掃除の経営学――Strategy as Practice アプローチからの研究――』

書誌情報:白桃書房,vii+206頁,本体価格2,800円,2011年8月6日発行

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トイレ掃除をはじめ,整理,整頓,清掃,清潔,躾の「5S」を励行している企業は多いと聞く*1。作法を加えて「6S」や掃除を入れた別の標語を掲げている企業もある。学長が率先して実践しているという話は聞いたことがないが,社長自ら朝一番に掃除をする有名チェーン店もある。
著者は,「5S」やトイレ掃除は現場でよく知られた実践である一方で,標準化された活動ではないことに注目している。ある先行研究によれば,「5S」はテーラーの科学的管理法を導入するための前提として大正初期に「清潔」が推奨され始め,それなりに定着するのは戦後という。現場中心的な活動でありながらQCが標準化されたのとは対照的である。
著者は,先行事例や調査の分析からトイレ掃除は手段志向性の高いプラクティスであることを示し,種々のプラクティスと共存しえるだけでなく,組織全体の一体感が高まったことをあげている。トイレ掃除を通じて,問題処理能力(自力),受容力(他力),取捨選択力(利他),問題発見能力(利己)を体現する個人が企業の問題解決力の持続的向上に貢献することになるのだ。
日本の高校教育までは半強制的にトイレ掃除を含む掃除をする。大学に入った途端,ペットボトルの「置き去り虫」やキャンパスにゴミが落ちていても知らぬ虫など大量のジコ虫が発生する。ましてやキャンパス内でタバコの吸い殻やゴミを拾い,はみ出し自転車を整理する評者以外の教員を見たことがない。大学の教員が範を示してまずはトイレ掃除から始めるのも大学改革の第一歩になるかもしれない。

*1:愛媛大学では施設基盤部安全環境課が担当で毎月第一木曜日を「5Sの日」(「5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣化)」)として毎月メールが回ってくる。メールによる確認は「習慣化」されている。