書誌情報:平凡社新書(666),295頁,本体価格840円,2013年1月15日発行
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「シカゴ・ボーイズ」として経済学を修めたアンドレ・グンダー・フランクは,1973年以降チリにおいて実践されたフリードマン流経済学を経済による大量虐殺と告発した(『チリにおける経済ジェノサイド』1976年)。「人びとの暮らしの糧を奪い,あるいは過酷な労働を強いて生活を破壊し,健康な心身を失わせること,またその結果として生存のための犯罪を増加させ,社会を危機に晒すことも,間接的とはいえやはり「虐殺」の一種」(40ページ)というのだ。
著者はこのフランクの問題意識からフリードマンの経済学を思想史的脈略に再定置する。暮らしに直結するアントロポス人間観とヒューマニズムにつながるフマニタス人間観とを対比させ,支配・統治・権力・国家を考えアントロポス経済学を構想しようと主張している。中立的・科学的な経済学,小さき者の自由の支持は富裕な少数者を代弁することになっているというフリードマン経済学への批判は痛烈だ。企業の社会的責任,貨幣主権と変動相場制,社会保障など新自由主義を彩るいくつかの論点に食い込み,アントロポスに根ざした不服従の経済学を展望する。
「進歩・前進をひたすら追い求めるフマニタスの知に対置されるアントロポスの知のあり方は,まずは盲目的に同化せずにとりあえず立ち止まること,すなわち「不服従」の姿勢」(281ページ)という戦略は,「西洋文明を意識的かつ大規模に摂取した,結果として相当にフマニタス志向である日本」(280ページ)にいるわれわれに――歴史的文脈もさることながらTPP交渉や集団的自衛権論,2020年東京オリンピック「狂」奏曲がすぐ思いつく――大きな示唆を与えてくれる。
経済学についての知識とここ50年の経済的問題についての絡み具合を解いてくれる知的刺激に溢れた新書だった。
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