948マイケル・ブース著(寺西のぶ子訳)『英国一家,日本を食べる』

書誌情報:亜起書房,278頁,本体価格1,900円,2013年4月15日発行

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イギリス人フードジャーナリスト,トラベルジャーナリスト一家の日本食文化紀行である。東京,横浜,札幌,京都,大阪,広島,福岡,沖縄を3カ月かけて,麺類や粉もんを含む和食の食べ歩いた。和食のレシピへのこだわりは日本人以上である。札幌ではカニとラーメンを食し,「食感のバリエーションとコントラストは,今回の日本食べ歩き旅行で得た最大の発見」(104ページ)と感想を残す。東京の「壬生」では,「身体中の毛という毛が逆立っ」て,「このだし汁をもう一度味わえるなら,すべてを差し出してもいい」(262ページ)とまで言い切っていた。京都・貴船では流しそうめんも経験した。「他では見られない,信じられないような料理」で「純粋でシンプルで自然と調和するという日本料理が常に目指す目的の象徴のような,いわば伝説的な食事」(152ページ)という。愛媛県まで足を延ばしたならさらに素朴な流しそうめんを紹介できた。
英語圏で知られている和食の本は,辻静雄が書いた "Japanese Cooking: A Simple Art"(初刊1980年, Kodansha Amer Inc; 25 Rep Anv, 2012.2.17, [isbn:9781568363882])だそうで,「今でも日本料理といえば,辻の本に始まり,辻の本で終わるといっても過言ではない」(16ページ)そうだ。「現在進行形の日本の料理に関する本,今の日本ではどんなものを食べていて日本料理は今後どうなっていくのかについて書いた本はとても少ない」(17ページ)というから,本書のような食べ歩きは貴重な情報発信になる。ちなみに,原著のタイトルは,"Sushi and Beyond: What the Japanese know about Cooking" である。
また,「僕が知っているなかで一番美しい料理本」(137ページ)は,"Kaiseki" [isbn:9781568364421] とある。フードジャーナリストは伊達ではない。
たこ焼き:タコのぶつ切りが入った小さなドーナツ,お好み焼き:いろいろなものが入っている分厚いパンケーキ,きつねうどん:やわらかくてもっちりしたうどん。だしは少し甘めで,薄い豆腐を揚げたものが入っている,串カツ:串刺しにして,パン粉をまぶして揚げたもの。なるほどわれわれに身近な食を外国人に説明するのは難しい。
日本での英文出版が危機にあると言われるなかで,4月には和食をテーマにした "Umami: The Fifth Taste" (Japan Publications Trading, 2014.4.30, [isbn:9784889963915])が出た(日経新聞「活字の海で」,2014年5月18日付より)。