1177橋本直樹著『『共産党宣言』普及史序説』

書誌情報:八朔社,404頁,本体価格6,500円,2016年6月25日発行

『共産党宣言』普及史序説

『共産党宣言』普及史序説

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かつて『聖書』とならんで全世界でベストセラーと言われたことがあり,『共産党宣言』(以下『宣言』)ほど人口に膾炙したマルクス本はない。その初版は二月革命勃発直前の1848年2月に刊行された。ただ,刊本には23ページ本,30ページ本,ヒルシュフェルト版があり,部数や書誌情報は不明であった。本書は『宣言』初版を23ページ本と確定する初版研究部分と『宣言』のいくつかの翻訳と改版の出版史および普及の歴史から影響史を分析した部分からなっている。大著でありながら控えめな「序説」としているのは夥しい出版回数と多言語翻訳をすべて扱っていないからである。
「1848年2月刊行。/ロンドン。/J. E. ブルクハルトにより/『労働者教育協会』の印刷所において印刷。/ビショップスゲイト,リヴァプール・ストリート,46。」という刊記をもつ23ページ本には7種の印刷異本があり,日本では唯一慶應義塾大学三田メディアセンターにある(ただし伝承と来歴は不明)。『宣言』を学術研究の対象にし,当時の社会運動史だけでなく書物の受容史から一書に纏めた著者の仕事によって,『宣言』はようやくイデオロギーから政治的偏見から解放された。