1724デイビッド・G・マコーム著中房敏朗・ウエイン・ジュリアン訳『スポーツの世界史』

書誌情報:ミネルヴァ書房,252+8頁,本体価格2,800円,2023年4月30日発行

スポーツの歴史に関する本を最初に読んだのは『フットボールの社会史』(マグーン著忍足欣四郎訳,岩波新書,1985年,[ISBN:9784004203124])だった記憶がある。フットボールを通じて民衆が日常と祝祭との往還を経験することから,スポーツが制度化される歴史を描いた秀作だった。
本書は競馬,クリケット,野球,ゴルフ,テニス,卓球,サッカー,ラグビー,アメフト,バスケットボール,バレーボール,水泳,スキー,アイスホッケー,ボクシング,自動車レース,クリケットなど多くのスポーツの逸話やエピソードを編んで,国際化するスポーツの現状と問題点を探った本だ。
卓球について,佐藤博治(ひろじ)によるスポンジラバー使用を「テクノロジー上の危機」と評し,「グローバルな民衆のゲーム」(91ページ)としている。また,いわゆる「ピンポン外交」の一幕にも触れていた。
オリンピック・ベルリン大会マラソンの金メダリスト・孫基禎(ソンギジョン)について,「孫は苦渋を噛みしめながら日本のユニホームを着て,「そんきてい」という日本語の読みで走ることを強いられた。孫が表彰台に上がると,楽団は日本の国歌を演奏し,日章旗が掲げられた。韓国初のチャンピオンである孫はうつむき,失われた国のために涙ぐんだ」(189-190ページ)。写真にある孫のゴールシーンは喜びと悲しみが同居していた。
プロとアマ,人種,民族,ジェンダー,薬物,商業主義などスポーツの世界の現在は重層化していることがよくわかる。